『サウンド・オブ・ミュージック』製作50周年記念吹替版 インタビュー  日本語訳詞 もりちよこ/聞き手:相馬学

──もりさんは40周年記念版のときに、「ドレミの歌」以外の歌詞の吹替を手がけられたんですよね。今回の50周年版では、そのときの日本語詞のまま、吹替版キャストを一新しているのですが、ご覧になっていかがでしたか?

私と関わりのある方が多く出演されていて、最初は驚きました。平原綾香さんとは2007年に「感謝」という曲の詞をご提供したのが縁で、LINEでやりとりするほど親しくお付き合いさせていただいています。石丸幹二さんはお目にかかったことはありませんが、NHK「みんなのうた」で現在オンエアされている、「かいじん百面相」という歌を歌ってらっしゃいますよね。実はこの番組で、私が作詞したガッツ石松&ポカスカジャンさんの「OK食堂」もオンエア中ですし、石丸さんのニューシングル「かいじん百面相」に「エーデルワイス」も収録されるとのことで、ご縁を感じますね。

──平原さんとはお友達でしたか!

綾香さんは去年、「Winter Songbook」というアルバム用に、『サウンド・オブ・ミュージック』からジャズ・アレンジの「私のお気に入り」をレコーディングしているんです。彼女は最初、それが私の日本語詞とは知らなかったようで、後で知ってビックリしたとおっしゃってました。色々な歌詞候補の中から“それで私OK”という部分を気に入ってくれて、私の日本語詞と知らずに選んだそうです。このときは、50周年記念版の配役は決まってたのかしら?

──いや、タイミング的には決まっていませんでした。

だとしたら凄い偶然ですよね。その後に改めてマリア役として「私のお気に入り」をレコーディングされるなんて。そのジャズ・アレンジ・バージョンは遊び心のあるものでしたが、50周年記念版の歌は正統派で、まるでジュリー・アンドリュースが乗り移ったみたいでしたね。昨年、綾香さんは舞台のミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」に主演されていて、その際に発声法をミュージカルのために変えたとおっしゃっていましたが、その成果もあったと思います。

──面白い偶然ですね。本当に縁で結ばれているような。

そういえば、50周年版の吹替演出をされた市之瀬洋一さんは、私が「おかあさんといっしょ」のために書いた「かっぱなにさま?かっぱさま!」という珍曲がありまして(笑)、そこで男声コーラスをしていらしたんですよ。市之瀬さんが覚えていらっしゃるかはわかりませんが、そんなふうにいろんな方とちょっとずつつながって、それが今回の『サウンド・オブ・ミュージック』に結集している。ご縁のある方々が、私が日本語詞に込めた思いを、とても素晴らしいかたちで体現してくださいました。作詞家として幸せなことですよ。

──そもそも10年前に、『サウンド・オブ・ミュージック』の吹替歌詞を依頼されたときは、どう思われましたか?

重圧はまったくなくて、“え、書かせてくれるの!?”と、びっくりして。子どもの頃に観た大好きな映画でもあるし、小さい頃にジュニア・ミュージカルズという子どもミュージカルのグループに入っていたんですけれど、そこで『サウンド・オブ・ミュージック』を上演したこともありました。私はもちろんマリアの役をやりたかったんですけれど、歌がそれほど上手ではなかったし、背も小さかったのでマルタの役でしたね。おかげでしばらくは“マルタちゃん”というあだ名で呼ばれるようになって(笑)。小学生の頃には合唱団に入っていましたが、そこでは当然のように『サウンド・オブ・ミュージック』の曲が歌われるんですよ。そういう思い出もあって、この映画にはとても親しみはありました。日本語詞を依頼をされたときは正直、驚きましたよ。あのジュリー・アンドリュースの姿に、私の日本語詞が重なるんだから、こんなに嬉しいことはありません。

──40周年記念版以前のテレビ等の日本語吹替版は、「ドレミの歌」以外の歌曲シーンはすべて吹替なしだったんですよね。

そうですね。だから本当に光栄で有り難かったです。作業自体はとても大変でしたが、作詞家になって5年ほどしか経っていなかったのに、このような仕事ができて幸せでした。

──“大変だった”と仰いましたが、英語のミュージカル楽曲を日本語にする作業は、いかにも難しそうですね。どんな点で苦労されましたか?

英語は短い言葉で多くの内容を伝えられるんですよ。それを日本語で表現することが、大変でした。たとえば、“I love you”はメロディーに乗せると3音で歌えます。日本語で正確に訳すと“私はあなたを愛しています”と、15文字15音必要になって、どうしても長くなる。音符上に乗せるためには同じ内容を半分以下のボリュームで言い表わさないといけなくなるんですよ。さらに難しかったのは、できるだけ英語で歌う役者の口の動きにそった日本語詞にして欲しいというリクエストがあったことです。今思うと、実写の吹替なので当然ですが。

──いちばん大変だった曲はどれですか?

冒頭でジュリー・アンドリュースが歌うタイトル曲「サウンド・オブ・ミュージック」ですね。彼女の第一声を、観る人すべてがワクワクして待っていますからね。歌い出しは、原詞では“The hills are alive~”5音で訳すと“丘は生きている”となりますが、これだと彼女の口の動きと合わないし長過ぎるんですよね。どうやって言葉を入れるべきか、とても悩み、正確な訳から離れて発想を切り替え、この大自然のシーンで両手を広げた主人公マリアが何を見ているのかを改めて想像したんです。そこで生まれたのが“青い空~”という5音のフレーズでした。これなら映画の中のジュリー・アンドリュースと同様に、口を大きく開けて歌えると思って。もちろん、原詞を好まれるファンの方には“丘は生きている”という意味はとても大事な言葉であることは理解していましたし、“な~んだ、空かよ”と思われるかもしれませんが、あのシーンに最適な吹替日本語詞は“青い空”しかなかった。言い訳がましいですけど(苦笑)。その後の歌詞“with the sound of music”は映画のタイトルが入っているので、そのまま原詞を生かしました。

──最初が最大の難関でしたか。じゃあ、その後はポンポンポンと上手くいったのでしょうか?

いやいやいや(苦笑)。歌だけ訳せばいい、という単純な作業ではなかったんですよ。この映画ではセリフ自体が歌になっている場面もありますが、そういうシーンでは人物がアップになるので、より英語の口の動きに日本語詞を合わせる必要が生じます。なので、この人物がいつアップになるのかをいちいち確認しながら言葉を選びました。今思うと、“私、よくやったなあ”と思います(笑)。原詞の内容に合って、音数に合って、さらに口の動きに合って、そういう枠の中で、せいいっぱいのものを書かせていただきました。


──“The hills are alive~”と“青い空~”と似たような、原詞と日本語詞の意味の違いで悩まれた箇所は、他にもありますか?

いっぱいありますよ! 「私のお気に入り」に関しては熱狂的なファンの方には申し訳ないなあと思うほどでした。“おどろいて、悲しくて、泣きたいなら”という日本語詞をつけた部分があるのですが、英語では“When the dog bites, When the bee stings, When I'm feeling sad(=犬にかまれたとき、蜂に刺されたとき、私が悲しいと思ったとき)”という歌詞なんですよ。さすがに、短いフレーズや音数の中では、これは表現できませんでした。綾香さんが気にいってくれた、“それで私OK”のフレーズもそうでしたね。原詞では“And then I don't feel so bad”7音なんですよね。“そうすれば私は悪い気がしなくなる、気持ちがほぐれる”という英語の意味をどうやって歌に乗せるか、かなり考えましたが、 “so bad”と歌うジュリー・アンドリュースは口を開いているので、「これはもう“OK”しかないな」と思いました。“それで私いいわー”という訳も考えましたが、これだと口の動きに合わないんですよね。“いいわー”ではなく“OK”にして、それを綾香さんが気に入ってくれて、その彼女が今回声優を務められたという巡り合わせを考えると、いいチョイスだったと思います。

──「エーデルワイス」も劇中の有名な一曲ですが、これも有名ゆえに困難だったと思いますし、歌うクリストファー・プラマーの顔も頻繁にアップになりますよね。

はい。クリストファー・プラマーは口をはっきり開いて歌うというより、自然に、渋く歌う感じですよね。ささやくような、つぶやくようなさりげなさがあるんですよ。その口の動きに注意しながら日本語詞をつけました。40周年記念版での布施明さんのレコーディングの際に、スタジオにお邪魔させてもらったんですが、圧倒されましたよ。50周年記念版の石丸さんもお見事ですね。布施さんとは違う、いい雰囲気が出ていると思います。演じる方次第で、個性が出ているのは見ていて面白いですね。

──子どもたちの歌のシーンはどうでしょう? もりさんが関わられた曲には子どものための歌も多いですし、実際、見ていてとても生き生きした空気を感じましたが。

「さようなら、ごきげんよう」のシーンは本当に子どもたちがかわいらしいですよね。映像がとてもかわいらしかったので、子どもの立場になって書けたと思います。大人びたきちんとした言葉ではなく、子どもの話し言葉を考えました。“嫌だけれども”ではなくて“やだけど”というような。そういう点に気を遣いましたね。逆に、役者よりも人形劇が画面に多く映っている「ひとりぼっちの山羊飼い」は気楽でした。子どもたちの顔がはっきり映る場面は少なかったですから。あの曲に関しては、自由に書けたと思います。

──先ほど、ファンの方に申し訳ないと思いながら訳した部分があるとおっしゃっていましたが、外部の反響は気になるものですか?

それはもう、『サウンド・オブ・ミュージック』は世界的に愛されていますし、マニアックなファンの方もたくさんいらっしゃいますから。そういうファンの方からは、たとえばネット上で“なんだ、これは!”と非難されることもあり悲しくもなりましたが、一方で“よくやった!”という声には励まされました。これだけの作品だから、賛否両論があって当然ですよね。私としては、お年寄りや、まだ字幕が読めないお子さんたちにも楽しんで欲しいという気持ちを日本語詞に込めたつもりです。この映画のファンになる方は、これからもどんどん増えると思っています。そういう意味では、とても有意義な仕事をさせていただきました。

──もりさんは、作詞家になる以前はコピーライターのお仕事をされていたんですよね。どれくらいされていたのですか?

12年くらいです。私は学生の頃から、シンガーソングライターをしていたんですが売れなくて、生活のためにコピーライターのアルバイトを始めたんですよ。それから広告の世界に入ったのですが、とても面白くて刺激的でした。ただ、広告は消費されるもので、あっと言う間に消えてしまい、誰も覚えてくれない。“どうなのかなあ?”という疑問を感じたときに、“残るもの”を書いてみたいと思ったんです。それなら昔やっていた歌に戻ろうかな、と。でも、もうトシですから(笑)、シンガーソングライターというわけにはいかないし、じゃあ作詞をやってみようと思ったんです。

──なるほど。それに関連して、話を『サウンド・オブ・ミュージック』に戻しますが、40周年版の製作時は、作詞前の段階で声の出演者の方は決まっていたのですか?

はい、決まっていました。

──ならば、マリアや子どもたちの言葉であると同時に、その吹替キャストの歌声も頭に入れておかないといけなかったのでは?

そうですね。布施明さんは、布施さんのバックコーラスをしている方と友人だったので、コンサートによく行っていましたから、“こういう歌い方をされる”というのは頭の中にありました。華原朋美さんは、私が作詞家になったころに共作という形で詞を書いたことがありましたから、彼女の歌の雰囲気もわかっていました。島田歌穂さんはそれまで面識がなかったので、お声を聴かせていただいてから作詞に取りかかりましたね。

──なるほど。では最後に、『サウンド・オブ・ミュージック』の中で、いちばんお好きな曲を教えてください。

全部好き、というと何ですが……。あえてひとつ選ぶなら、「すべての山に登れ」です。40周年版でも50周年版でも伊集加代さんが修道院長の声を演じていらっしゃいます。伊集さんはスタジオ・ミュージシャンのコーラスの草分けの方で、スキャットの名手です。ネスカフェCMの“ダバダ~”で有名ですよね。『サウンド・オブ・ミュージック』自体に大きくお名前の出る方ではないですけれども、日本の音楽業界を裏で支えてきた功労者でもあり、また布施明さんのバックコーラスをしている私の友人は、伊集さんと一緒にコーラス・ユニットを組んでいるんですよ。そういうこともあって、伊集さんが『サウンド・オブ・ミュージック』に参加されていたのは驚きで、同時にとても嬉しかったです。実際に映画を見てみると、修道院長の声にはもちろん威厳がありますし、「すべての山に登れ」の歌声も圧倒的に素晴らしくて、これには感動しました。ラストでもう一度この曲が流れると、涙が出そうになりますね。

(2015年4月10日/於:20世紀フォックス ホーム エンターテインメント/文:相馬学)

もりちよこ

作詞家、コピーライター。学生時代よりシンガーソングライターとして活動。 電通EYE(現・電通東日本)勤務を経て、作詞家に。「ドコノコノキノコ」(NHK おかあさんといっしょ)や「ケロッ!とマーチ」(ケロロ軍曹)等のキッズ・アニメソングから、平原綾香、タッキー&翼、堀内孝雄、天童よしみ等J-POP、歌謡曲の作詞まで幅広い。韓国のインスニ、ペク・チヨン、アン・ジェウク、ZE:A等にも韓国語詞や日本語詞を提供。CD絵本「べじべじ〜とんがらきよしくん〜」(毎日新聞社)、「恋のスベスベマンジュウガニ」(アスコム)や、「コイシテイルカ」(さかなクンと共著/小学館)が出版されている。現在TV放送中の歌は、NHKいないいないばあっ!「わ〜お!」(毎朝夕)、NHKみんなのうた「OK食堂」(5月末まで)、NHKマリー&ガリー「ガリハバラ!」(毎週水夕)等。ぜひご覧ください!

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