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平田勝茂インタビュー

1977年に第1作『スター・ウォーズ』が公開され、05年の『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』で完結するまで約30年。全6部作にわたって全世界を魅了し続けてきた『スター・ウォーズ』シリーズが待望のブルーレイ化を果たす。吹替黎明期より日本語吹替版の翻訳に携わり、同シリーズでは第2作『~帝国の逆襲』から最終作『~シスの復讐』を担当。『コマンドー』『ダイ・ハード2』『スピード』と、20世紀フォックス作品とも馴染み深い吹替翻訳家・平田勝茂に、吹替版製作の醍醐味について聞いた。

吹替翻訳のスタートはアルバイトから

─お仕事を始めたきっかけを教えてください。

 きっかけは、学生の時のアルバイトです。親しくなった先生が、テレビの洋画劇場のフランス語の翻訳をアルバイトでやっていらしたんですよね。その方に誘われまして、僕の方は英語をやらせてもらって、直接依頼を受けていくうちに、そのままずるずるっとドロ沼状態でやるようになったんです(笑)。

─では、学生のころからだったんですね。最初に担当された作品は覚えていらっしゃいますか?

 そうですねえ…一番最初はマンガのシリーズかな。アメリカのアニメで『走れ!スパンキー!』と、そのあとハンナ・バーバラの『ベティちゃん』(ベティ・ブープ)です。劇映画では、たぶん翻訳者が揃わなくて話が回ってきたんだと思うんですけど、いきなり「4日でやってくれ」という無茶苦茶な話が来まして、それがソフィア・ローレンの『ひまわり』。いきなりすごいのが(笑)。それを3日で仕上げたので、「ひょっとしたらこいつは使えるかな?」と、先方に思われたんじゃないですかね(笑)。

 当時は16ミリの試写で観たのを覚えて帰って、その音声を録音した6ミリテープをくるくる回しながらセリフの音を取っていくというのが手順だったんですが、『ひまわり』のときは時間がないということで、スタジオ泊まり込みで、ドイツ製のスタインベックの編集機を使って16ミリフィルムからそのまま直接やりましたね。

(上) (下) 『スター・ウォーズ 新たなる希望』
TM & ©2011 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

─そうすると、ブレス(セリフの息継ぎのタイミング)を合わせたりするのは…できたんですか?

 それは最初に「こうやるんですよ」とディレクターに言われて。「とにかく息継ぎのところを合わせて、あとは合うようにやってください」ってそれだけ(笑)。なんとかちゃんとできたみたいですね、できてなかったら、こうしてお仕事できていませんし(笑)。

 本当、あんまり苦に思わなかったんですよ。いま、逆に学校などで教える立場になって、生徒たちがブレスを取るのに苦労してて、「コツはないんですか?」って聞かれるんです。コツと言われても「音を固まりで聞いて、その固まりに日本語に合わせるだけでいいんじゃないの?」と答えるんですけどね。そうなってくると、ある程度は感性の問題になってきますね。

─1作品目が『ひまわり』とはすごい話です(笑)。そこから色々と翻訳されるようになったわけですが、年間どのくらいの作品を翻訳されていたんですか?

 最盛期というか、テレビで洋画劇場がほとんど毎日、深夜にもやっていたころだと、長尺だけで年間40本近くやっていたことがあります。週に1本ペースですね。あとはテレビのシリーズドラマもやっていましたから、365日休みなくやっていた時もあったと思います。

─全盛期ですね。それは年代的にはいつころですか?

 自分が本格的に始めたのが70年代半ば以降だから、80年代中ごろじゃないですかね。バブル景気が弾けてから少し量が減っていった感じかな。90年代に入ってからはメディアが色々増えたでしょ。最初はテレビだけだったのがビデオが出てきて拡散するようになって、(翻訳を)やりたいという人も増えてきて。昔は、本当に限られた人数で回していたということもありましたから。

「吹替翻訳のおもしろさ」とは?

─字幕と吹替翻訳は全然違うと思うのですが、おもしろさって何なんでしょうか?

 字幕翻訳もやったことがあるんですけど、あっちは自由にセリフが書けないということが逆に一番おもしろくなかったですね。俳優はセリフでしゃべっているのに、字幕はいわゆる“字幕セリフ”で(話し言葉の)日本語は作れない。分量的に、どうしてもしゃべっている情報量の3分1程度しか網羅できないんです。吹替えだと、内容にもよるけど8割、多いときで9割はねじ込めます。そうすると、かなりセリフを作れるんですよ。

 昔、なんでもやっていた時代に字幕はちらっちらっとやってたんです。でも、あんまりおもしろくなかったですねえ(笑)。本当にそのまんまの翻訳だけになってしまうので。字幕なりの書き方でおもしろいものを書ける方もいらっしゃるし、やりようはあると思うんですけど。セリフは流れですから、前のセリフを受けて、そのセリフをさらに受けて…という流れが、字幕だとどうしても難しい面はありますね。ただ、吹替えの場合は、(翻訳に)時間がかかりますよね。情報量が多いし、しゃべっていることを全部翻訳しなきゃいけないので。一時期ちょっと迷ったことがあるんです、字幕に行ってもいいかなって(笑)。

─翻訳はVTRを観ながら行うんですか?

 VTRが一般的になった最近は、仕事的には楽になってますね。ただ、声だけで聞いて、自分でイメージしてセリフを作れるという初めのころと比べると、想像力が抑えられているな、とは感じました。でも、最初から画があるので、間違いは少なくなりましたね(笑)。

─現場でセリフを書き換えたり、後で見て「あれ!? 違う」というのもありましたか?

 昔はしょっちゅうでしたね。音だけ聞いているのとフィルムを観てとだと全然違うので、現場で流して「あ~、違ってた!」というのは大体ありましたね。その時の役者さんの雰囲気で、この口調でしゃべらせるとまずいなとか、演出的な要請で変えることもありました。現場で良いものだと思う方に変えるだけなら何も言わないんですけど、根本的にこちらが言いたいセリフを変えられると、ちょっとカチンとくるときもありますよね(笑)。その時に現場にいれば、文句も言います。

─吹替えの場合はキャスティングにも関わったりされるんですか?

 昔は、テレビの洋画劇場をやるときには、テレビ局のプロデューサーとディレクターと翻訳者の3人で面談をして準備稿を書くんです。それを読み合わせしながら、その場でキャスティングしていたんですよ。メインの役者は誰々でいくというのは大体決まっているんですが、向こうの俳優さんがおしゃべりな方だったりすると、最初からそういうのに向いてそうな方に絞って候補を挙げていきますね。「この人ならこれくらいはしゃべれるだろう」って、セリフの量を考えたりもして、若いころの羽佐間(道夫)さんなんてどんなに詰め込んでも大丈夫でしたから(笑)、ディレクターも「じゃあ遠慮なく詰め込んでください」となる(笑)。

─なるほど(笑)。この方はすごいと思われる方はいらっしゃいますか?

 個人的にファンなのは、青年座の津嘉山正種さんですね。一緒に仕事をたくさんしたというのもあるんですが、すごく色気のある声だと思います。あとは、大塚芳忠さんとか。彼がデビューしたころからの付き合いですから。

─相性のいい役者さんは?

 それはあんまり関係ないですねえ。ただ、僕が書くと「セリフが長いから勘弁してくれ!」とは言われます(笑)。そう言われると、余計意地になってわざと長くしたりしてね。いじめてやるんです(笑)。

─ものすごい数の吹替翻訳をやっていらっしゃるとは思うんですが、思い入れのある作品はどの作品ですか?

 それをね……かなり一生懸命考えたんですけど、だいたいどんな作品でも、いつも文句言いながらやっているんですよ。「なんでこんな早口なんだ」とか「なんでこんな小難しいこと言うんだ」とかって(笑)。だから、思い入れのある作品を挙げるのは難しいです。でも、一番難しかったというか、時間がかかったのは覚えているんです。『ナッシュビル』です、ロバート・アルトマンの。

─初放送は確か2時間枠でしたよね。

 そうです。放送は2時間枠(94分)ですけど、翻訳は2時間29分、全部やる(笑)。それでしかも歌もあるでしょ。翻訳が終わったあとに、どこをどうカットするかを決めるんですよ。(自分の翻訳が)報われるように、どう多く残してもらうかって(笑)。

 僕がやった中では一番手がかかりましたね。だいたいいつも1週間くらいあれば上げちゃうくらい手が早いのに、『ナッシュビル』に関しては3週間かかりましたから。しかも頭から最後までしゃべりっぱなしで、歌もガーッとあるでしょ。歌詞も字幕で出さなくちゃいけなくて、それの翻訳もやらなくちゃいけない。歌詞は翻訳の思考を切り替えなくちゃいけないのに。それでね、確認したんですが、登場人物は24人いるんですって。その24人のキャラを全部やりました。あれが一番疲れましたね。

─それは、達成感があったんじゃないですか?

 達成感というよりも、終わるとホッとする安堵の方が大きいかもしれないですね。「終わった、終わった~」というね。ただ、吹替え作品の場合は、自分が台本を書き上げた段階では終わらないわけですよ。そのあとにアフレコがあって、ダビングがあって、テレビで放送されたり劇場でかかって初めて完成品になるわけなんです。もちろん自分が作っているというのもあるんですけど、どうしても吹替え作品っていうのは、オリジナルを生で英語で聞いて受け取った感じとはまた違って、これはもともと日本語で作られた作品だったんじゃないかって、日本語の作品に思えるんですよね。

 もちろん、大きな劇場で公開される場合なんかは違和感があるんですけど、『ロード・オブ・ザ・リング』はまったく違和感を覚えなかったです。演出も役者もすごく良かったと思います。奇妙な安堵感を覚えたというか、そういった意味で言うと、これは達成感があった作品じゃないかなあ。

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