

──今回「日本語吹替完声版」を制作するにあたって、残念ながらイーストウッドの声をアテられていた山田康雄さんは亡くなられている、じゃあ代わりは誰だ? という話から始まりました。
どうしてこう(自分が演じることに)なったんでしょうか? 逆に聞きたいんですけど(笑)。
──まず、FOXのご担当者に、『姫様ご用心』(06年にWOWOWで放送されたTVアニメ)での多田野さんの声を聞いてもらったんです(多田野氏はルパン三世のような口調で話すキャラクター、レスリーの声を担当した)。
ああ、あれですね!!
──一発でOKになりました。「ぜひ多田野さんにお願いしたい」ということになりまして(笑)。
なるほど。ありがとうございます(笑)。
──今回の収録は、イーストウッドの声をアテるというよりは、むしろ山田康雄さんを演じるという形でしたが、ご感想はいかがでしたか?
汗びっしょりで、本当に緊張してクタクタですよ(笑)。欲を言うと(1人での収録ではなく)お歴々の方々にお会いしたかったというのはありますね。納谷悟朗さん(リー・ヴァン・クリフ)、小林清志さん(ジャン・マリア・ボロンテ)、大塚周夫さん(イーライ・ウォラック)。『ルパン三世』の初期メンバーじゃないですか。でも、目の前に揃っていらしたら、ビビって演技できなかったかもしれない。
──今回のような特殊な依頼は、正直複雑なお気持ちになりませんでしたか?
いいえ。(イーストウッドの声を演じるのは)夢でしたので、まさに“ドリームズ・カム・トゥルー”。心底うれしい。演じたくてしょうがなかったですから。イーストウッドは、山田さんのちょっとしたしゃべりでも吹替にウィットが出る……それがあってこそのイーストウッドなので、彼を演じることはイコール山田さんを演じるとういうこと。山田さんが持っている雰囲気をどうやって出すか、近づけるか……ということだと思うんです。私は「月曜ロードショー」から「日曜洋画劇場」まで、ビデオがなかった時代に毎日テレビで洋画を観ていた世代です。イーストウッドは、あの(山田さんの)声だと思ってたくらいですから(笑)。彼の声の持っている色気、そしてガンマンという設定なので、弱くならないように気をつけて演じましたね。
──それにしても震えがくるくらい似ていました。もしイーストウッド作品をまるまる1本多田野さんで吹き替えたら、山田さんじゃないことにと気づかない人も出るんじゃないかと思います。
いえ、そんなことありませんが…ただそれも弊害がありまして。数日後に舞台の本番があるのに、(演技が)“山田調”になっているらしく、共演のみんなからのダメ出しがすごい(笑)。「真似してない?」って。今日の(収録の)ために、『夕陽のガンマン』を朝から晩までずっと観まくっていましたから(笑)。
──本作品のイーストウッドは30代で、現在よりもうんとニヒルな感じですが。
ずっと昔からイーストウッドが好きで彼の主演を見ているので、そういうもんだと思っています。逆に(カリフォルニア州カーメル市)市長に就いたり、大御所監督扱いされている最近のイーストウッドに驚いています。今日の(『夕陽のガンマン』の)方が、私の持ってる彼のイメージかなあ。『荒野の用心棒』『マンハッタン無宿』『戦略大作戦』『ダーティハリー』……『ガントレット』は好きですよ。
──津賀山正種さんがアテた『センチメンタル・アドベンチャー』や、山田さんがやったことがあるのに、別の声優(樋浦勉氏)の新しいバージョンしか残っていない『真昼の死闘』なんかがあります。これからブルーレイ化されていくのに併せて新録音が増えていくかもしれませんよ。
『イージー・ライダー』のブルーレイは先日やりましたね。山田さんが声を演じたピーター・フォンダの追加録音で。
──そういうケースは増えるんじゃないでしょうか。 例えば『ダーティハリー』とか。
『ダーティハリー』! それは練習しますよぉ(笑)。
──声のお仕事のきっかけは?
普通ですけど、舞台を見てくれたプロデューサーが声をかけてくださって。マット・ディロンの『聖者の眠る街』が最初ですね。15、6年前で、ちょっとした役でした。
──最近では日曜洋画劇場で放送された『イントゥ・ザ・ブルー』での、多田野さんの声が巷で話題になっていました。
ジェームズ・カーンの息子の、スコット・カーンの声をやりましたね。そのときも(山田さん)ぽかったかなあ(笑)。僕は普段小さい人の役が多くて。一度、虫しか出ない映画で声をやったんですが、それでも“コクワガタ”って“コ(小)”が付いちゃってる! あとは猿とか小動物が得意ですね(笑)。東南アジア系の人の役も多いかな。
──山田さんとは同じ劇団(テアトル・エコー)ということですが、思い出みたいなものを聞かせていただけますか。
僕が劇団に入ったのは90年だったんですけど、その頃山田さんは、もう舞台には立ってなかったですね。納谷悟朗さんとは直近の舞台でも一緒にやらせていただいているんですが、残念ながら山田康雄さんとはご一緒できなかったんです。ところが、劇団には年末に1回、全員が揃う“総会”という日があるんです。1年の結果報告や来年に向けてのレパートリーを決めたりとかで、全員が集まります。 総会の司会はヒッチコック(熊倉一雄)で、ジョン・ウェイン(納谷悟朗)はいるし、元祖ひみつのアッコちゃん(太田淑子)はいるし……とにかくすごいんですよ。その人たちがあの声で意見を言い合ってる。ほんと僕なんて「うわああああ、みんなきてるよー!」って目を回してました。
その中でも山田さんは、ひとりで強烈な印象がありましたね。山田さんは総会で、「これでみんなで飲んでくれ」って、飲み代を札束で進呈するんです。すごく豪気な人だなあって思いました。
──ご本人の前で山田さんのマネは……?
あるわけないって!(爆笑) 絶対ないですよ! でも小林清志さんの隣で「次元大介おれの相棒♪」って(ルパン調で)小声で言ったことはある(笑)。でも、気づきもされなかった。「早撃ち0.3秒のプロフェッショナル。クールなガンマン。そのうえ義理堅く頼りになる男……」って(笑)。しかし今日、(小林さんが)いらしてたら何て言われたかなあ(笑)。
──洋画の吹替はもちろん、アニメにも多数携わっていらっしゃいますが、今後やってみたい役者はいらっしゃいますか?
うーん、無理だとは思うんですけど、正直に言うと、山田さんがやらなくあった後のイーストウッドを、一度、まるまる一本吹き替えてみたいんです。その場合は、(山田さんに)完全には似てなくてもいいわけでしょう? 今回の追加収録も、昔の吹替と一緒に並べて聞くと違うと思いますよ。DVDの吹替版で山田さん声を流して、同時に自分も声も出すのを、何度も繰り返して練習しましたが、自分と似ている音節や単語もあれば、似てないのもありましたから。
イーストウッド自体も高齢ですし、僕もいつまでも若いわけじゃないから、チャンスがあれば、ですが。あとは、一度やらせてもらったけどスティーブ・ブシェミ。メル・ブルックスも好きなんですよね。でもやっぱりイーストウッド(笑)。(山田さんは)劇団の大先輩だから、こういうお話をいただいて大光栄です。
──山田さんご本人を、そのまま演じるという形での“共演”となりましたが、この「日本語吹替完声版」をご覧になるファンの皆さんは、必ずご満足いただけると思います。
そう言っていただけるとありがたいですね。この作品(『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』)って本当におもしろいですから。テレビ版しか観ていないと分からないことも(完全版だと)腑に落ちます。「ああ、こういうことだったんだ」って納得しましたよ。それから山田康雄さん、納谷悟朗さん、小林清志さん、大塚周夫さん、内海賢二さん、槐柳二さんなど、名前を挙げれば切りがありませんが、大先輩の方々の声の演技をご堪能いただきたい!! カッコイイです。
2009年8月19日/於 オムニバスジャパン TFCスタジオセンター/聞き手:フィールドワークス 文:村上 健一