

──収録お疲れさまでした。見学させていただいて、相変わらずの熱演で圧倒されました。
僕らの育った時代はテレビがないんです、ラジオもNHKしかなくて。それであとは大道芸人の小屋と新劇の舞台しかない。俳優になりたいということで先輩に相談したら、「君、ほんとに俳優になるのか? その顔、スタイルでは(二枚目の)映画俳優は無理だよ。それでもやりたいなら、どんな役が来ても一生懸命、脇役としてなんでもやらないと役者にはなれない」と言われたんです。
僕は新派系の劇団に入って、仕草で情緒や感情を表現する芝居を勉強していたんですけど、10年目くらいでテレビが出てきて、自分も出演し出してみると、そういう(新派的な)テクニックはないのに、新劇の役者がいい役を持っていくんですよね。これが「なんで?」って悔しいの。新劇は、仕草じゃなくて、心だけで役の人間をいかに表現するかというところがあって、つまり「役作り」が基本。それで途中で新劇の劇団「俳優小劇場」に移ったんですが、演出家の早野寿郎さんに「俳優にとって一番大事なことは、らしく見せることじゃないんだよ。それは身振り手振り、ただの“ジェスチャー”。それが豊富にできるからって、いい役者だなんてとんでもない」って言われましてね……これが一番堪えた。悲しいところでそのまま悲しい演技をしてセリフを話しても、そんなのは人の心を打たない。日常生活でこんなにウソをついている人間がね、素直に感情出すわけがないんです。だからこその“芝居”なんですよ。その勉強をしろよということだったんです。
テレビも散々出ましたけど、途中から顔出しが嫌になっちゃってね。色んな種類の人がごちゃ混ぜで出てきて、なんにも芝居の勉強してないタレントさんまで出てきちゃった。彼らはそのまんま、自分の個性を売り出せばいい。僕たちは、どこに自分がいるかわからないくらいに役にのめり込む。声のアテレコをやっていても、「今日は東映(『ゲゲゲの鬼太郎』)のねずみ男です、明日は東北新社のブロンソンです。明後日は(『ピーターパン』の)フック船長があります。次は『美味しんぼ』の海原雄山です」といったわけです(笑)。
アテレコをやってる人間で、こんな形でお芝居を真剣に勉強してきた連中って、80代じゃもう僕と大平透(『シンプソンズ』のホーマー、『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造役など)、中村正(デヴィッド・ニーヴンのフィックス声優、『奥さまは魔女』のナレーション)、加藤精三(『巨人の星』の星一徹役)、大木民夫(ハマー・ホラーでのピーター・カッシングなど)の5人しかいないんですよ。だから、吹替の“匂い”が変わってきてしまいましたね。それに今の映画が、人の心を勝負にしなくなってしまいました。今日の『続・夕陽のガンマン』のように、いい奴と悪い奴と汚い奴の3人が出てきて……みたいな、ハートに訴えるもので勝負してないんです。スピードと爆発と殺戮でドキッとさせるだけ。キャラクターは“らしく”あればそれでよくなっちゃった。だからアニメも苦手でね(苦笑)。最近はアテレコの時に絵ができてないから、「絵がないのにできねえよ」って(笑)。
あとナレーションも嫌いなんです。せがれ(同じく声優の大塚明夫氏)は大好きみたいだけど(笑)。客観的にしゃべればいいんでしょうけど、その“客観的”というのが役者にとっては一番まずいんです。「チンドン屋が説明してるつもりで……」ならわかるんです。そうじゃないと、自分がどこにいるのか分かんないんですよ。
──やはりナレーションでも“役”としての掘り下げが必要なんですね。
全部、自分の“地”になるように狙って演じています。ねずみ男をやれば「絶対地だ」って言われますよ(笑)。生の声もクサいところも、オーバーなところも、役によっては三枚目も。(人間を)匂わせるのはいいんですけど、ナレーションみたいに匂わせないのができない。だから苦手なんですよねえ。どこで(地を置いて)しゃべればいいんだろ? って。
(持ち役の)チャールズ・ブロンソンだって、実際は森山周一郎くんの方がしゃべりも声も合ってると思うんです。でも結局ブロンソンもね、ずっとやってるうちに、もっと魅力的にするにはどうしたらいいか? って考えるわけなんです。あの顔をしてて、女の子や動物に対してはすごく柔らかい表情を見せる。アップでグッと掴んで、ガッーっと引いてから(ぼそりと)「水をください」って。彼の芝居するときは、全部(出す声は)中間音ですよ。間が違うわけ。妙な音でね。それをベタベタに使いましたね。ブロンソン本人以上に。
──『続・夕陽のガンマン』は、そういうセリフの掛け合いが重視されている作品だと思います。吹替も名作と賞されているんですが、37年ぶりに臨まれてみていかがでしたか?
アテレコがね、一時期人気が悪くなったときがあったんです。原語の調子と合わせるようになっちゃって、みんな「I don't know!」というセリフを「知ラナーインダ!」なんてカタコトの日本語みたいに言うようになっちゃって。「なんだそりゃ!? 俺たちで(アテレコの会話を)元に戻そうぜ」って、納谷悟朗さんなんかと一緒に考え抜いて演じていた時期の作品じゃないですかね。会話は会話として淀みなくやって、アドリブも利かせて、大事なところはギチッと力を入れて。そういうのが、今はなくなっちゃいましたよね。37年前、僕が43歳でしょ。男のいいのは40から65歳までですからね。二枚目は10代からでもいいけど、バイプレーヤーはその辺りの年齢にならないと渋さが出てこない。(状況や役に合わせて演技を)抑えることも覚えますし、その中からぽっと出てくるセリフがよくなりますしね。
今回の台本のも、ちゃんと録画したビデオがあったんで、趣味のヘラブナ釣りを2日休んで、全部観てきました。80ページもある台本を放ってはおけないし(笑)。これはどのシーンに挟まるんだ? って確認して。そうじゃないと、(43歳のころの)若さや調子を合わせられないですから。
──若いころのご自分の間に入ってくわけですもんね。でも、聞いているとまったく遜色なかったです。
43歳のスタミナと80歳じゃあ……やっぱり変わりますよ。でも、必死になってテンションを上げてますから。歳取った、なんて言われるのも嫌だしね、やる以上は。
──イーライ・ウォーラックが演じる“汚い奴”トゥーコは本当に人間くさくて、大塚さんの声が入ることで、さらに魅力的なキャラクターになっていると思います。
顔にハエがたかったり、墓場を這いずり回るシーンなんかは、絶対黒澤明監督の影響だろうね。上手く使ってるなあと思いましたよ。人間の醜い欲望だとか描いて、すごく面白いものね。最後に「ごめんなさぁい」って(吹替では)言っちゃってるんですよね。元々台本にはないんです、そのセリフ。「ブロンディー!」って叫んでるだけなんだけど、つい「ごめんなさぁい!」って言っちゃった(笑)。それがウケちゃって。でも、今(のスタイルの収録)は、そういうことは一切言わしてくれない。台本通り。(タイミング等がより厳密になったかもしれないが)それではダメだと思いますよ。人間の生きたセリフなんてそんなもんじゃない。そうじゃないと“味”は出てこないですよ。
──往年の吹替えが評価されているのも、そういう妙をファンがわかっているってことだと思いますね。
そうそう、そういう小気味よさみたいなものがちゃんと通じるんですよね。音の変化とかセリフ回しの中での距離感とか。そういうところまで神経を使いながら、役者は匂い、くせ、個性、作品の中で必要な役になりきりたいという願いがあるんです。
──それにしても、80歳になられたんですよね。
ダンサーになりたくて子供のころからずっとダンスをやってましたからね。胸、肩の力を落として、お腹をへっこまして、姿勢を崩さないでいられたおかげで、この歳になっても腰が曲がらないんです。声出すのも複式呼吸ですから(健康にもよくて)。だから、最後の「ブロンディー!」は80歳の声じゃないよね。今の人たちは、ああいう声は出せないんです。
──まさかあの既存のシーンを録り直すとは思ってなかったです。
こうやってお仕事をもらえますからね。女房にも話したんだけど、僕に来る役は、誰もやり手がいない「めんどくせえ役」ばっかり(笑)。でも、そのちょっとイカれた感じが僕の魅力でもあるしね。みんなと同じのを演じていてもつまんない。せがれに言わせると「思い切ってるねー」って言われちゃうけど(笑)。役作りに対しては、ほんと、ズボッとやりきってます。
今の若い人たちは、怖くてそういうアプローチができないんです。ディレクターに怒られると面倒だから。ディレクターとやり合うなんてこともなくなりましたね、そういう時代じゃなくなりました。10年目くらいの、そこそこのキャリアのある役者だと、こういう声の仕事が一番楽なわけなんですけど、そういう人は役作りなんて考えていないです。単に声だけ。そういうのが「私たちの仕事は“塗り絵”みたいなものですから」なんて言っちゃって……なに言ってんだ! ですよ。(作品に出ている)向こうの俳優に恥ずかしくないような日本語でやんなきゃだめでしょって、向こうの演技の欠点を隠すくらいの日本語でやんなきゃいけないんですよ。それが、なにが塗り絵だよって。悔しいですねえ、そういうことを言われると。
──いっそのこと、スパルタ教育の“大塚塾”を開かれたらどうですか?
ですよ。ぜーーーーーったい教えない。教えてたまるかってんです(爆笑)。この歳になったから色々言ってるだけで、役者はそんなことを言うべきじゃないと思ってます。
──おっと、もう予定の時間なんですね。おもしろいお話をありがとうございました、今後のご活躍も楽しみにしています。
今日はあれだけドカーっとやらされちゃったんで、機嫌がいいんですよ(笑)。ほんと、またジジイの声が欲しいなってときには用立ててください。
──それでは……ぜひナレーションで(笑)
プロゴルファーでも医者でもチンドン屋でも……前提がちゃんと決まってれば(笑)。
2009年8月20日/於 オムニバスジャパン 三分坂スタジオ/聞き手・文:村上 健一