

──『昼下りの情事』は、3回目の収録になりますが、ご感想はいかがでしたか?
あまりにも初期の作品でとっても可愛いオードリーですから、また収録することになるとは思ってもみなくて。ちょっと無理なんじゃないかな…お断りしたほうがいいんじゃないかなと思ったんです。ところが、「いえ、池田さんがいいんです」とおっしゃってくださって。それならもう“やるしかない”って(笑)。
オードリーの映画はいつもそうなんですけど、彼女が引っ張ってくれるんですよ。ですから始まれば、スーッと、本当になんの抵抗もなく話の中に入っていけるというか、呼び込んでくれる。彼女の力や作品そのものの力をすごく感じます。
──監督・脚本がビリー・ワイルダーで、セリフの質と量がすごいですね
そうですね、オードリーの映画はいつもセリフが多いんです。出てこないページがないくらい。この頃の映画はとっても脚本がよくできていて、セリフのやりとりが洒落ていて小粋で。でも、相手の言葉をちゃんと聞いていないと応えられない、自分のセリフが出てこないという面もありますから、“セリフのキャッチボール”がものすごく楽しい半面、かなりの緊張も強いられるという面もあるんです。それは演じる者にとって、すごく幸せで楽しいものでもあるんですけどね。
──お相手のゲイリー・クーパーは、小川真司さん(マイケル・ダグラスの吹替でおなじみ)。ベテラン同士だと、安心して聞いていられるというか…さすがとしか言えません。
小川さんとは『ローマの休日』のDVD用吹替でもご一緒してますから、安心して委ねてしまいました(笑)。

──さて、今回は『昼下りの情事』に併せて『おしゃれ泥棒』も再発になります。もちろん池田さんの日本語吹替版入りです。当時の思い出などがあれば聞かせていただきたいのですが
最初に観たときに、『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥールがコメディをやることが意外でした。吹替のときは(中村)正さんのアドリブが面白くて(笑)、最初に感じた違和感がありませんでした。
──吹替というお仕事の場合、元の役者の演技があるわけですが、ご苦労もあると思います。
苦労もそうですけど、それ以上にすごく勉強になりますよね。本当に上手な女優さんが演じているわけですから。相手のテンションに合わせて的確に日本語をアテていかないと、とてつもなく不自然な日本語になっちゃうと思うんですよね。だから演じている女優さんの芝居、そのときの心理状態まできちっと捉えてアテていかないといけない。そりゃ、まったく同じ風にはできないんですけど、芝居の本質そのものは、やっぱりそこに合わせていかないといけないんです。頑張って背伸びしてもなんにしても、中身を芝居を気持ちを相手の女優さんに合わせていく…それがすごく勉強になるんですよね。
「いままでの自分の感覚でやっていると、絶対こうはいかなかったなあ」ということがあるんです。こういう感情の表し方もあるんだ、このほうがずっと相手に通じるじゃないって。「こういう時には、こういう風に言うのよ」って、実際に教えていただいてるみたいなんです。
──しかも、その相手はオードリー・ヘプバーンという名女優です
彼女の場合は、普通の(グラマラスな)ハリウッド女優に比べるとキメの細かい芝居をされるので、それが日本人の感性にすごく合っている気がします。東洋的というか。ですから、やりやすいと言うとおこがましいですけど、心情的にも声の出し方でも、すごくわかるというか…ハリウッドの方はどちらかというと、派手だしダイナミックだし、表現の仕方が日本の女性とはかなり違っていて、日本語にするときにちょっと「ええ!?」というのがあって(苦笑)。でもオードリーの場合は、「ええ、どうして?」ということが一度もなかったです。ひたすら「そうそう、これがいいのよねえ…」という感じでした。
──さて、池田さんは、日本で一番オードリーに同化された女性なんじゃないかと思うんですが、『マジック・オブ・オードリー』で、彼女の人生を振り返ってみてどう感じられましたか?
台本を読んだときに、改めてすごい人だったなって思ったんです。だから、今でもこんなに人気があるんだなって。『ローマの休日』も5回くらい録り直しているんですが、わかっているのに同じシーンで涙が出たりして、その度に新鮮なんですね。常に新しい感動を観る側に与えてくれるって、やっぱり主演してる彼女の人間性なのかなあ…って思いますね。常に何かを求めて、常に誰かに愛を注いでいる。そういう彼女の本質的なものがスクリーンに現れているんじゃないでしょうか。